January 7, 2025
USスチール買収問題 なぜ禁止命令?今後は?

USスチール買収問題 なぜ禁止命令?今後は?
日本製鉄(以下、日鉄)の米・大手鉄鋼メーカーUSスチール買収計画に対し、バイデン大統領が国家安全保障上の理由を挙げて禁止命令を出しました。
これに対し日鉄は「不当な政治的介入だ」と強く反発し、USスチールとともにバイデン大統領やアメリカ政府を相手取り、禁止命令の無効を求める訴訟に踏み切りました。米国大統領相手に訴訟を起こす異例の事態となっています。
- なぜ買収禁止命令が出された?
- 日鉄・USスチールは猛反発
- 日鉄・橋本会長「買収はあきらめない」と明言
- USスチール・ブリットCEO「買収には意義がある」
- お互いが望んだ買収計画だったのに...
- 日米関係は今後どうなる?
なぜ買収禁止命令が出された?
バイデン大統領は、大統領命令でUSスチール買収を阻止し、ホワイトハウスも「外国企業による米鉄鋼業の支配は、安全保障だけでなく労働者の雇用や製造業全体に影響しかねない」と強調しています。
この背景には、アメリカの鉄鋼労働組合の存在があります。米政権は強い労組の支持が大きな政治基盤となるため、国内に根強い保護主義的な声に配慮しなければなりません。USスチールの工場はペンシルヴェニア州をはじめ、選挙で争点となる地域に多く存在することもあり、大統領としては「米鉄鋼の外国資本化を防いだ」という実績を示したい思惑があると見られています。
日鉄・USスチールは猛反発
しかし、日本製鉄とUSスチール側は「むしろ米国内の雇用維持と鉄鋼産業の強化につながる」と真っ向から反論。「大統領選を意識した政治的介入だ」として、バイデン政権や国家安全保障を管轄する対米外国投資委員会(CFIUS)が不当に審査を操作したと主張しています。
日鉄とUSスチールは、禁止命令の無効を求める訴訟に踏み切り、「USスチール買収こそが米国鉄鋼産業を活性化し、中国鉄鋼の脅威に対抗する手段だ」と繰り返し訴えています。
しかしながら、大統領命令は国家安全保障を根拠とするため、専門家は「覆すのは容易ではない」と指摘。政治的思惑が絡み合うだけに、法廷で安全保障上のリスクをめぐる証拠をどのように示し合うかが最大の争点となるでしょう。
日鉄・橋本会長「買収はあきらめない」と明言
報道によれば、日鉄の橋本英二会長は記者会見で「憲法あるいは法令に明確に違反したものだ」と厳しい口調で批判。
バイデン政権が国家安全保障を名目に、審査に結論ありきの政治的介入を行ったとして全面的に争う姿勢を鮮明にしています。また、「アメリカの国家安全保障の強化に資すると考えており、決して諦める理由はない」と語り、買収実現への決意を改めて示しました。
USスチール・ブリットCEO「買収には意義がある」
米CNBCテレビによると、米鉄鋼大手USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は、バイデン政権が出した買収禁止命令について「法治主義を無視した不当な措置」と厳しく批判。
一方で、2025年に就任予定のトランプ次期大統領が買収を容認する可能性に期待を示し、「トランプ氏は賢い人物だ。状況を冷静に判断し、正しいことをする機会があると信じている」と語りました。ブリットCEOは、日鉄との提携が米国の鉄鋼産業を強化し、雇用維持や技術面でも大きなメリットをもたらすと主張しており、引き続き買収の実現を目指す姿勢を明確にしています。
USスチールCEOの声明 禁止令に対する猛反発が伺える/USスチール公式サイトより引用
お互いが望んだ買収計画だったのに...
今回の日鉄のUSスチール買収計画はUSスチールが不利になるものではなく、USスチールにとって非常にありがたいことでした。
USスチールの公式サイトでいかにこの買収が利益をもたらすかが紹介されています。
USスチールと日鉄によるペンシルベニア州への経済効果を示すインフォグラフィック / USスチール公式サイトより引用
日本製鉄と米国製鉄が提携し、モンバレー地域に大きな経済的利益をもたらす計画を示しています。最初の2年間で約10億ドルの経済効果が期待され、さらにその後も持続的な成長が見込まれています。
また、このプロジェクトにより約5,000の建設関連の雇用が創出され、地域の経済を支える基盤が強化されるとしています。
さらに、州および地方レベルで約4,000万ドルの税収が見込まれ、ペンシルベニア州のコミュニティにも直接的な利益をもたらすとされています。
加えて、USスチールは日本製鉄と協調が素晴らしいものになると訴えるCMも制作していました。以下が動画です。
日鉄との協調関係を望むことを伝えるCM / USスチール公式Youtubeより
「Nippon Steel Ad Showcases Mon Valley Voices- 日本製鉄 広告 モンバレーの声を伝える」
この動画は、USスチールと日本製鉄(Nippon Steel)の協力をテーマに、アメリカ・モンバレー地域の鉄鋼業を支える人々の声を紹介したものです。
地域経済と雇用の基盤となっているUSスチールの工場が、いかに地元の生活に密接に関わっているかが描かれています。また、日本製鉄との提携による10億ドル規模の設備投資計画を通じて、地域の未来を守り、アメリカ鉄鋼業の新たな時代を切り開く希望が語られています。地元の声をリアルに伝えながら、産業の重要性を訴える感動的な内容となっています。
こんなに望まれていた買収が、突然の第三者介入により破談になりそうなのですから、たまったものじゃありませんよね。
日米関係は今後どうなる?
石破首相は「日米間の投資が冷え込み、経済関係にマイナスの影響が広がるのは避けたい」と強い懸念を表明しており、経団連も同様の立場を示しています。日鉄とUSスチールが主張するように、米国内への大規模投資は雇用を生み出し、鉄鋼の生産や技術力向上にも寄与するはずです。
仮に買収が完全に阻止されれば、日本製鉄はUSスチールに違約金として5億6500万ドル(約890億円)の支払い義務が生じる可能性があります。
さらに、今後の対米投資に尻込みする日本企業が増える可能性があります。日米同盟が経済的にも戦略的にも緊密化を求められるなかで、保護主義的な措置が強まると、「中国企業の台頭を牽制する」という本来の狙いを損なう恐れさえあります。
日本製鉄とUSスチールの主張が認められるのか、それとも禁止令が支持されるのか。訴訟の行方と政権交代による新たな展開が、日米経済関係や世界の鉄鋼市場にどう影響するのか、目が離せません。
参考:
- https://www.ussteel.com/newsroom/-/blogs/statement-from-david-b-burritt-u-s-steel-president-and-ceo-on-today-s-order-by-president-biden-
- https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250107/k10014686011000.html
- https://news.yahoo.co.jp/articles/4cfcf0092b44c60b5d2e6d7a24ca9dbb1cb7e674
- https://jp.reuters.com/markets/commodities/ASLB6HHVZNPYDHU46JZLSNYS3I-2025-01-07/